「この部品は高温になるので耐熱樹脂で作りたい」――樹脂部品の設計や調達でよくあるご相談ですが、一口に耐熱樹脂といっても種類は多く、「耐熱温度」の意味もカタログによって異なります。
この記事では、耐熱樹脂の基礎知識として、耐熱温度の見方、耐熱性による樹脂の分類、代表的な耐熱樹脂の特徴、選定時のポイントをわかりやすく解説します。
耐熱樹脂とは

耐熱樹脂とは、高温環境でも強度・寸法・電気特性などを維持できる樹脂の総称です。明確な定義はありませんが、一般に連続使用温度が100℃以上の樹脂が耐熱樹脂と呼ばれます。
樹脂は金属と違い、温度が上がると徐々に軟化し、さらに長時間熱にさらされると分子レベルで劣化(酸化・分解)が進みます。そのため耐熱樹脂を選ぶ際は、「何℃で変形するか」と「何℃まで長期間使えるか」を分けて考える必要があります。
「耐熱温度」の見方|3つの指標を理解する
カタログやデータシートには、耐熱性に関する複数の数値が記載されています。それぞれ意味が異なるため、混同すると材料選定を誤る原因になります。
① 連続使用温度(RTI・長期耐熱温度)
長期間その温度にさらされても、物性が大きく低下しない温度の目安です。UL746Bで定められたRTI(相対温度指数)が代表的で、物性が初期値の半分になるまで10万時間(約11年)以上かかる温度として定義されます。実際の製品で長期間使用する場合、最も重視すべき指標です。
② 荷重たわみ温度(HDT)
一定の荷重(0.45MPaまたは1.82MPa)をかけた試験片を昇温し、規定量たわんだときの温度です。短時間で「変形し始める温度」の目安であり、剛性の指標でもあります。連続使用温度より高い値になるのが一般的で、この数値を耐熱温度と思い込むと、実使用で想定より早く劣化することがあります。
③ 融点(Tm)・ガラス転移温度(Tg)
結晶性樹脂は融点で溶け、非晶性樹脂はガラス転移温度を超えると急激に軟化します。成形温度の目安や、耐熱性の理論的な上限に関わる数値です。
| 指標 | 意味 | 用途 |
| 連続使用温度(RTI) | 長期間使用しても物性が維持される温度 | 長期使用する製品の材料選定 |
| 荷重たわみ温度(HDT) | 荷重下で変形し始める温度 | 短時間の耐熱性・剛性の目安 |
| 融点/ガラス転移温度 | 樹脂が溶ける・軟化する温度 | 成形条件の設定、耐熱性の上限 |
たとえば「耐熱温度200℃」と書かれていても、それがHDTであれば、200℃で連続使用できるわけではありません。材料選定では必ず連続使用温度を確認し、使用条件(荷重・時間・湿度)と照らし合わせることが重要です。
耐熱性による樹脂の分類
樹脂は耐熱性と価格によって、大きく3つに分類されます。
| 分類 | 連続使用温度の目安 | 代表的な樹脂 | 特徴 |
| 汎用プラスチック | 〜100℃ | PE、PP、PS、ABS、PVC | 安価で成形しやすい。日用品・容器・筐体など |
| エンジニアリングプラスチック(エンプラ) | 100〜150℃ | PA、PBT、POM、PC、m-PPE | 強度・耐熱性・耐薬品性のバランスが良い。機械部品・自動車部品・電気部品の主力材料 |
| スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ) | 150℃〜 | PPS、PEEK、LCP、PEI、PSU | 極めて高い耐熱性・耐薬品性。高価で成形難易度が高い |
一般に「耐熱樹脂」として設計・調達の場面で検討されるのは、エンプラ以上のクラスです。多くの製品では、エンプラの範囲で要求を満たせることが多く、スーパーエンプラが必要になるのは、連続150℃以上の高温や、特殊な耐薬品性が求められるケースに限られます。
代表的な耐熱樹脂(エンプラ)の種類と特徴
設計・調達の現場で使用頻度の高い、代表的なエンプラの特徴を整理します。
| 樹脂 | 連続使用温度の目安 | 主な特徴 | 主な用途 |
| PA(ポリアミド/ナイロン) | PA6:約80〜100℃ PA66:約100〜120℃ | 靭性・耐摩耗性・耐薬品性(油・ガソリン)に優れる。吸湿性が高く、寸法・物性が変化する | 自動車エンジン周辺部品、コネクタ、ギア |
| PBT(ポリブチレンテレフタレート) | 約120℃前後 | 電気絶縁性・寸法安定性に優れ、吸水率が低い。高温高湿では加水分解に注意 | コネクタ、センサー、電装部品 |
| POM(ポリアセタール) | 約80〜100℃ | 摺動性・耐疲労性に優れ、寸法精度が高い。耐熱性はエンプラの中では低め | ギア、軸受、摺動部品 |
| PC(ポリカーボネート) | 約120℃前後 | 透明で耐衝撃性が高い非晶性樹脂。耐薬品性・耐傷性は低め | 透明カバー、ハウジング、レンズ |
| m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル) | 約100〜130℃ | 寸法安定性・電気特性・難燃性に優れる。比重が小さい | 電気・電子部品、OA機器部品 |
なお、上記の各樹脂には、ガラス繊維などで強化した「強化グレード」も用意されています。強化グレードは荷重たわみ温度や剛性が大きく向上しますが、連続使用温度は大きくは変わりません。
耐熱樹脂を選定する際のポイント

「高温だから、なるべく耐熱性の高い樹脂を選ぶ」という考え方では、過剰品質によるコスト増や、成形難易度の上昇を招きます。以下の点を整理したうえで材料を選定することが重要です。
最高温度と、その温度にさらされる時間
常時高温なのか、短時間だけ高温になるのかで、必要な指標が変わります。常時であれば連続使用温度、短時間であればHDTを基準に考えます。
荷重の有無
高温下で荷重がかかる部品は、クリープ(じわじわ変形する現象)が問題になります。HDTが高い材料や、強化グレードの検討が必要です。
湿度・水・薬品の環境
温度だけでなく、接触する環境も耐久性に影響します。PAは吸湿で強度が低下し、PBTは高温高湿で加水分解が進みます。油・ガソリン・洗剤など、接触する薬品も確認が必要です。
寸法精度の要求
嵌合部や組立部がある製品では、熱や吸湿による寸法変化が問題になります。吸水率の低いPBTや、線膨張の小さい強化グレードが候補になります。
成形性・二次加工
耐熱性の高い樹脂ほど成形温度が高く、金型や成形条件の難易度が上がります。また、溶着・接着・塗装などの二次加工の可否も材料によって異なります。
コスト
耐熱性が高い樹脂ほど材料価格は高くなります。要求性能を満たす範囲で、最もコストの低い材料・グレードを選ぶことが基本です。
材料選定に迷った場合は、使用環境と要求性能を整理したうえで、成形メーカーに相談することをおすすめします。実際の成形実績にもとづいて、過不足のない材料をご提案できます。
耐熱樹脂の射出成形で注意すべきポイント
耐熱樹脂は成形温度が高く、材料特性に起因する注意点も多いため、汎用樹脂と同じ感覚では安定した量産ができません。代表的な注意点を整理します。
- 成形温度・金型温度が高い
融点が高いため、成形機のシリンダー温度・金型温度も高くなります。結晶性樹脂では金型温度が結晶化度に影響し、寸法・強度・後収縮に関わるため、安定した温度管理が必要です。 - 予備乾燥が必須
PA・PBT・PCなど多くの耐熱樹脂は吸湿性があり、水分を含んだまま成形すると、シルバーストリークや強度低下(加水分解)の原因になります。成形前の十分な乾燥と、乾燥後の材料管理が重要です。 - 収縮率が大きい
結晶性のエンプラは収縮率が大きく、寸法精度の確保にはゲート位置・肉厚設計・成形条件の検討が必要です。 - 成形サイクル・冷却
金型温度が高い分、冷却時間の設定や金型温調の管理が量産の安定性を左右します。 - 金属部品との組み合わせ
金属端子などをインサート成形する場合、高温で成形した樹脂が冷却時に収縮するため、金属との収縮差によるクラックに注意が必要です。
耐熱樹脂に関するよくある疑問
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「耐熱温度」と「連続使用温度」は同じですか?
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異なる場合が多いです。「耐熱温度」がHDTを指していることも多く、その場合は長期間使用できる温度ではありません。長期使用の可否は連続使用温度(RTI)で判断してください。
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ガラス繊維入りにすると耐熱温度は上がりますか?
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荷重たわみ温度(変形しにくさ)は大きく上がりますが、連続使用温度(劣化しにくさ)はほとんど変わりません。「高温で変形する」問題には有効ですが、「高温で劣化する」問題はベース樹脂の変更が必要です。
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短時間だけ高温になる場合も耐熱樹脂が必要ですか?
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短時間・無負荷であれば、連続使用温度より高い温度に耐えられる場合があります。ただし、はんだリフローのように短時間でも高温(200℃以上)になる工程では、専用の材料が必要です。
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PAとPBTはどちらが耐熱性が高いですか?
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連続使用温度はいずれも100〜120℃程度で大きな差はありません。選定は耐熱性よりも、靭性(PA)か寸法安定性・電気特性(PBT)か、湿度環境はどうか、といった観点で決まることが多いです。
トルク精密工業の耐熱樹脂への対応
トルク精密工業では、PA66・PBTなどのエンプラ(耐熱樹脂)の射出成形に対応しています。自動車関連部品を中心に、高温環境で使用される樹脂部品の量産実績があります。
材料選定の段階からご相談いただけるほか、金属端子と耐熱樹脂を一体化するインサート成形にも対応しています。試作検証から量産まで一貫して対応し、図面段階からのVA提案も行っています。
まとめ
耐熱樹脂を選ぶ際は、「耐熱温度」という言葉に惑わされず、連続使用温度・荷重たわみ温度・融点の違いを理解したうえで、使用条件(温度・時間・荷重・湿度)と照らし合わせることが重要です。多くの製品はエンプラの範囲で要求を満たせるため、必要以上に高価な材料を選ばないこともポイントです。
耐熱樹脂の材料選定や成形についてお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。